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2008/11/22(土)
   

ポップコーン巻末対談(1/3)

先日購入した文庫本、ポップコーン。
お目当ては巻末の富野対談だったのだが、折角なので本文も読んでみた。
つーかなんという本末転倒。

物語は物凄く簡単にまとめると、
セックスとヴァイオレンスが特徴の映画監督ブルースの自宅に、
彼の映画のファンである連続殺人鬼のカップルが立てこもり、
駆けつけたテレビ局に対していろいろな要求をしていくというもの。
マスコミのモラルの問題や、
映像作品が見るものに与える影響……
などなど映像業界の抱える問題をあぶりだしている。

実際に殺人カップルが立てこもるまでの前半は、
ちょっとかったるいなぁという印象だったのだが、
後半はグングンと引き込まれて読んでしまった。
いや存外に面白かった。
「マスゴミ( ゚Д゚)<氏ね!」と口汚く罵るのもいいが、
じゃあどうすればいい?と考えねばならない状況になっているのではないかな。

というわけで巻末の富野と筑紫哲也の対談を転載。
思ったよりも長くなりそうなので、3回に分けてみる。
そういえば筑紫哲也氏もお亡くなりになっちゃったのね。
富野はまだまだ長生きして欲しい。

 

対談『ポップコーン』の向こう側


筑紫哲也(ジャーナリスト)
富野由悠季(アニメ監督)


現代のメディア社会の問題とイギリス人の視線

筑紫  『ポップコーン』を読んで僕が一番感心したのは、現代社会のまさしく「今」を見事に切り取っているところなんですね。テレビの仕事をしていると今を切り取 ることの難しさを痛感するんですが、作者のベン・エルトンは、アメリカという巨大なメディア社会が今このとき抱えている様々な問題を、「自己責任とは何か」という大テーマを軸に見事に描き切っている。
富野 稀に見る傑作、快作だと僕も思います。彼自身の才能によるところも大 きいんでしょうが、世界中に植民地を持っていた大英帝国崩壊後、ヨーロッパの端っこからその世界を察してきたイギリス人の視線というのは、やっぱり素晴ら しく客観的でシニカルだなあと。そんなところもあらためて感心させられました。だからこそ模倣殺人という問題もシリアスになり過ぎず、コメディとして描けるんでしょうね。
筑紫 外交の世界で「オブザベーション・ポスト」という言葉があるんです。その国をよく分かろうとしたら、 その中にいるより、むしろあまり遠くない、適当な距離のところから見るのが一番だということなんですが、アメリカという国を知るのにもっとも適した距離にあるのがイギリスだと思いますね。アメリカの文化の基本はアングロサクソンですから。
富野 実を言うと、ここ十数年、僕の中にはずっと向き合ってきたテーマがありまして、それはつまり、我々はメディア社会と呼ばれる中で様々な情報を手に入れているように見えるけれども、それを知識として身につけるのに肝心な根幹の部分を見失いつつあるんじゃないか、ということなんです。そしてインターネットまでがダーッと普及した今、明らかに根幹の部分を摑まえていない世代がドンと出てきた。そのギャップの大きさと、バブル経済にはしゃいで、根幹の部分の大切さをきちんと言葉として下の世代に伝えなかった我々世代の責任とを実感しているところに、この『ポップコーン』が出て、いやあ困ったな、全部やられたなと(笑)。
筑紫 まさにそういう状況を背景にした作品ですね。日本には日本の社会の、アメリカにはアメリカの社会の基本的な根幹があるはずなんだけれども、それが抜け落ちているという状況がどちらにもある。
富野 僕が一番怖いなと思うのは、メディアの送り手側がビジネスとしてどんどん消費者に与える、という姿勢です。
筑紫 情報そのものが非常に消費型になっているんですね。しかもスナック菓子のように食べ続ける、とりあえずの消費。そのシンボルとして作品中に出てくるのが、あの監督の作っている映画ですよ。
富野  ええ。エンターテインメントというのは本来、人間が持っている喜怒哀楽の根源に対してするはずのものが、今は「ワア凄い!」とか「キレイ!」とか、そのと きだけの刺激としてのエンターテインメントになってしまっている。たとえばゲーム界の人たちが明らかにそうですね。新しいソフトを次々に消費者に提供するというビジネスであり、本来的な娯楽論はないんですね。これは文化をも消費しちゃうということで、僕は凄く怖いことじゃないかと考えているわけです。
筑紫  その場限りの消費ということと、もう一つ、情報の捕らえ方が非常に断片的になっているという一面もあると思うんです。たとえばこの『ポップコーン』に出てくる殺人カップルの女の子の方が、自ら教養がないと認識しているにもかかわらず、最後の方の場面で「アメリカの半分は地獄に住んでいて、ほかの半分はそれを眺めて楽しんでいる」なんて言葉を吐くのは、本当にゾッとする。つまり、根幹の部分はすっぽり抜け落ちているけれども、自分のエゴを正当化したり、プロテクトするのに有効な断片は情報として鋭く捕らえているわけです。
富野 まさにそういう情報の捕らえ方をしている言葉を、今の日本でもよく耳にしますね。お前、自分の言葉でしゃべれよと(笑)。ところで、この『ポップコーン』という作品では、無差別殺人の犯人が自分たちを救済する手立てとしてテレビを利用するわけですが、筑紫さんは実際にテレビの仕事をされていて、しかも作品の舞台であるアメリカに住んでいらしたこともある。 実感として、僕よりもずっとリアリティを持って迫ってくるんじゃないですか。
筑紫 それも、とても皮肉なリアリティなんです。現実の非現実化、非現実の現実化と言うか。この作品の中に描かれているアメリカ人のある種の虚飾性を、アメリカに住んでいるときに僕は嫌というほど見てきましたけど、これは実はテレビというメディアの発達と非常に関係があるんです。
 それはつまり、世の中には二通りの現実があって、一つは現実に起きたこと、もう一つはそれがどう見えたかということで、大事なのは後者、どう見えたかなんです。この方向へもっともアクセルをかけて進めていったのがテレビであり、それを大衆のメディアとして受け入れることで、アメリカ人は自分たちが見たこと が現実であると認知するようになっていった。いい例が湾岸戦争です。テレビゲームのような画面を通じて、爆弾を落としたのは見えても、落とされた側の苦しみや悲惨さは見えないという形で、多くの人がこの戦争を認知した。そして、こういう認知の仕方が人間の振る舞い方というものに物凄く影響するんですよ。
富野 テレビカメラや人々の目によく映るように、内側はどうであれ、表向きを装うテクニックを身につける。いわゆる外面重視の自意識というやつですよね。
筑紫 まさしくそうで、アメリカのテレビ界ではその手の有象無象がしのぎを削っている。セレブリティって言うんですけど、要するに有名人ですね。この人たちの嫌らしさというのは、この作品の主人公のブルースがまさに体現していますが、もう堪らないものがある。
富野 見ているこっちが恥ずかしくなりますよね。
筑紫 しかしアメリカに限らず、メディアが広がっていく社会においては、そういう種類の人間がどんどん作られていく。我が国でもすでに相当作られていますよ。
富野 ああ、分かります分かります。それぞれ個性らしきものをアピールしていますよね。
筑紫  カメラを向けた途端に皆それぞれの芝居を始める(笑)。まだヘタなんだけど、皆それぞれ指向はあるんですよ。どう見えるかが重要だと考えているのは、テレビの世界を職場にしている人たちだけじゃないんですね。政治家にしろ何にしろ、今やテレビ映りで上手に説明できるのが勝ちであり、テレビというメディアを使いこなせない者は敗者である、という構図が完全に成り立っている。いわゆるメディア作戦ですよね。『ポップコーン』の中で殺人犯ウェインが企てたメディ ア作戦は、現場でのテクニックに勝る監督に揺さぶられて悲惨なカタストロフィを迎えてしまうわけだけれども、断片的な業界用語を知っていたり、視聴率で状況の操作を試みたりするあたりには、生まれてこの方テレビを見続けてきた世代らしいリアリティを感じますね。 



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